現在経理の仕事をしている(または今後しようとしている)けど、将来その仕事ってなくなってしまうの・・・?
こんな悩みを持っている人のために、上場会社経理部で10年以上勤務し、その後5年間海外関連会社にて勤務している筆者がお答えしたいと思います。
近頃のAIおよびRPA(Robotics Process Automation)の発達により、世の中のほとんどの仕事はなくなると言われています。
経理の仕事は、この「今後なくなる仕事」の筆頭候補と言われています。
ではなぜ将来経理の仕事が無くなるとと思われているのか、経理の仕事を大きく5つの階層に分けることで、筆者がどの階層がなくなると考えているのか、無くならない業務もあるのか、などについてお伝えしていこうと思います。
- 人工知能により経理の仕事はなぜ無くなるのか
- 経理の仕事の5つの階層とは
- 人工知能に奪われる経理の仕事は?
- 人工知能に奪われない経理の仕事は?
1.人工知能により経理の仕事はなぜ無くなるのか
まずはじめに、私自身も、経理の仕事は人工知能によってほとんど無くなる、と考えています。
ただ、「経理の仕事」というのを具体的にどのような業務と定義するかにもよりますが、一般的に皆さんが考えている経理の業務とは下記のようなものかと思います。
それらは完全に無くなると思っています。
【みんながイメージする一般的な経理業務】
- 伝票入力・承認作業
- 支払実行
- 入金受入
- データの入出力
- 決算書(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書など)の作成
では、これらがなぜ無くなる(AI・人工知能が取って代わる)と考えているのか。
理由は下記です。
理由は下記です。
- ルーチン業務だから
- 標準化できるから
- ルールが明らかだから(会計基準など)
筆者が思うに、ある種のルールに従って毎日(毎月)同じような仕事をしていて、かつ標準化できてしまう業務というのは人工知能にとって変わられる仕事です。
しかも「ある種のルール」というのが固有のものではなく、「会計基準」など公なものであれば尚更です。
結局のところ、人工知能云々というより、自分でなくても他の人でもできる=アウトソースがしやすい仕事というのは必ず自動化(人工知能化)されると思っておいた方がいいです。
2.経理の仕事の5つの階層とは
前章でも述べましたが、世間の皆さんが一般的に思う経理の仕事というのは、伝票入力や決算書の作成といったものかと思います。
一方、上場会社で10年以上勤務し、現在海外の関連会社で経理業務に従事している筆者としては、経理の業務は大きく5つの階層に分かれると考えています。
- データの正確な出入力(伝票発行・承認、仕訳投入、必要な経理データのシステム)
- 日々の会計データから決算書を作成する
- 決算書の分析
- 分析結果から問題点を抽出し、経営目線でのアクションプランを立案
- アクションプランを現場の人たちと実行、トラッキング、問題点を解決に導く
順番に見ていきましょう。
1. データの正確な出入力
経理の基本は日々のビジネストランザクションを仕訳と言うものと使って会計システムに投入していくことです。
どういった費用勘定を使うべきなのか、製造部門のコストなのか、販売部門のコストなのかなど、一定のルールに従って伝票を作成し、システムに投入していきます。
また、会計システムに入っているいろいろなデータを分析したい内容によって正確なパラメータによって出力することも求められます。
こういった業務は経理の最もベーシックが業務ではありますが、経営目線からしたら残念ながら付加価値は無い仕事と言わざるを得ません。
2. 決算書の作成
上記の1によって日々会計システムに溜まったデータを利用して、毎月損益計算書や貸借対照表などの決算書を作成します。
ただ、日々のデータだけが入っていれば、それだけで自動的に決算書がつくられるかというと実はそうではありません。
決算仕訳と呼ばれる、決算書を出来るだけ正確なものにするために必要な調整のようなものが発生します。
詳しい説明はここでは省きますが、例えばまだ請求書はもらっていないけど、支払いの義務は発生しているものだったり、システム的に売上が上がってしまっているけど、実はまだ会計上の売上ではないものなどが存在するのです。
こういったものを経理部員が決算仕訳としてシステム投入することで、より正確な決算書を作り込んでいきます。
決算書を作成するにはそれなりの知識(会計基準など)が必要ですので、付加価値としては高いように感じられますが、やはり経営目線で言えば低いと言わざるを得ません。
だって経営者としては正しい決算書が出てくるのは当たり前と考えていますから。
当たり前のものに対する価値って残念ながらあまり高く無いんですよね。
3. 決算書の分析
経営者としては正しい決算書が出てくるのが当たり前、といったのは、経営者にとっては決算書は単なる「ツール」でしかないからです。手段であって目的ではないのです。
ではその「ツール」を使って何をするのかというと、「分析」です。
その前月の売上はどの程度だったのか?
どんな製品がどんなお客に多く売れたのか?
全く売れなかった製品は何か?
どうしてこんなに費用がたくさんかかったのか(原価が悪化したのか)?
人件費が予定より多いのはなぜか?
売りが上がっているのに収益率が下がっているのはなぜか?
などなど。
決算書を作成すると、上記のような疑問が出てきます。
これらの疑問の答えを探すことがいわゆる決算書分析です。
実はこの分析の仕方や分析結果については同じ経理部員でも様々な方法や結論が出てきます。
その会社および事業によって分析方法のベストプラクティスがあるのだと思うのですが、結構個々の経理マンのセンスによるとことも大きいと筆者は感じています。
その会社および事業によって分析方法のベストプラクティスがあるのだと思うのですが、結構個々の経理マンのセンスによるとことも大きいと筆者は感じています。
分析と聞くとなにやらすごく高度なことをやっているように聞こえますが、分析自体は目的ではありません。
逢えて悪い言い方をすると「情報をまとめているだけで新たな価値は生み出していない」のです。
逢えて悪い言い方をすると「情報をまとめているだけで新たな価値は生み出していない」のです。
ただ、分析をするにもそれなりの知識やセンス、慣れなども必要ということは確かだと思います。
4. 分析結果から問題点を抽出し、経営目線でのアクションプランを立案
ここからが筆者が思う経営者にとっての付加価値のあるものかと考えています。
データの入出力も、決算書の作成も、決算分析も経営向上のための単なるツールでしかないということはご理解いただけたかと思います。
そして経営向上のためにまずなにが必要かというと、なにが問題点なのかをはっきりさせることです。
例えば決算書を作成してみると、ある顧客への売上が下がっていることを発見したとします。
分析の過程でどうやら東京営業所のAという製品の売上が芳しくないことがわかりました。
よって、経理からの経営層への報告は「東京営業所のAという製品の売れ行きの鈍さが、この顧客への売上が下がった要因です」としました。経理部は満足げです。
ただ、これでは全く経営にとって価値はないです。
だってそれを聞いた経営者は「で?」となるだけです。
だってそれを聞いた経営者は「で?」となるだけです。
本当に役立つ経理はここからもう数段階踏み込みます。
東京営業所のA製品の売り上げ減少はなぜ起こったのか?
季節要因なのか、最近他社でも新規参入はなかったのか?
業界全体が落ち込んでいるのか?などなど。
東京営業所のA製品の売り上げ減少はなぜ起こったのか?
季節要因なのか、最近他社でも新規参入はなかったのか?
業界全体が落ち込んでいるのか?などなど。
そして踏み込んだ結果、最近東京営業所の担当者に交代があって、顧客との情報交換が薄くなった結果、競合他社にシェアを奪われていたことがわかったとします。
これこそが経営上の問題点なのです。
問題点がわかったら、それを改善するためのアクションプランの草案などを考えていくことが必要となります。
5. アクションプランを現場の人たちと実行、トラッキング、問題点を解決に導く
問題点がわかって、それに対するアクションプランも考えられたとします。
ただ、そのアクションプランが机上の空論であったら意味がありません。
現場の人たちが実際に行動できるものでないとならないのです。
ただ、そのアクションプランが机上の空論であったら意味がありません。
現場の人たちが実際に行動できるものでないとならないのです。
そのために、現場の人たちと密にコミニュケーションをとり、そのアクションプランが本当に実行できるものなのか、効果があるものなのかを一緒に検証していく必要があります。
そして現場の人たちにも腹落ちしてもらい、アクションプランを一緒に実行していきます。
その後それらのプランがうまく行っているかトラッキングしていくことで、当初の問題点が解決されたところを見届けます(上記の例だと、東京営業所からのAという製品のある顧客への売上回復)。
人によってはこういった業務は経理の仕事ではないという人もいるかもしれません。
ただ、私が思う最も付加価値の高い経理の仕事はこの5番目の階層であると考えています。
会計の知識や数字に強いことはもちろん重要ですが、この5階層目で最も重要なスキルとはコミュニケーション能力であると言えると思います。
ただ、私が思う最も付加価値の高い経理の仕事はこの5番目の階層であると考えています。
会計の知識や数字に強いことはもちろん重要ですが、この5階層目で最も重要なスキルとはコミュニケーション能力であると言えると思います。
3. 人工知能に奪われる経理の仕事は?
さて、前章までに経理のを5つに分けましたが、果たして人工知能にとって変わられる階層はどこまででしょうか。
私は下記のように考えています。
- 短期時間軸では1から3階層まで
- 中長期的には4階層まで
ほとんど全てですね。
もう皆さんお気づきと思いますが、1と2は完全に標準化可能なルーチン業務ですし、3の分析に関してはビッグデータを扱うことが大得意のAIには持ってこいの業務だと思います。
従ってこれらの業務は数年のうちに無くなると考えています。
4に関しては「アクションプラン」を建てるという分析結果と会社の現状とを照らし合わせることが必要になるため、ここまで自動化しようとすると少し時間がかかるのではと考えています。
ただ、これもいずれはある程度自動化が進み、付加価値としては低いものとなっていくと踏んでいます。(人工知能がもっと定性的な情報を扱えるようになった後に起こること)
ただ、これもいずれはある程度自動化が進み、付加価値としては低いものとなっていくと踏んでいます。(人工知能がもっと定性的な情報を扱えるようになった後に起こること)
4. 人工知能に奪われない経理の仕事は?
中長期的に見ても人工知能での代替が難しいと感じるのは5のみです。
5のキモとなる部分は、現場へのアクションプランの落とし込みです。
どんなにいろんな業務がオートメーションされようが、人工知能が発達しようがそれを使うのはヒトのはずです。
従ってヒトが動かなければ(ヒトに動いてもらわなければ)、どんなに良いアクションプランであったとしても意味がありません。
個人的な経験からしても、残念ながらどんな素晴らしいアクションアイテムであろうが、それをただ「やってください」と指示するだけでは 良い結果とはなりません。
アクションを実行する人たちにオーナーシップを持って行動してもらう必要があります。
これがアクションプランの現場への落とし込みです。
これを実現するためにはやはり人と人とのコミニュケーションが大切であり、経理部員としては会計専門知識・用語を交えた小難しい説明ではなく、みんなに理解してもらえる方法での説明が必要なのです。
私としてはここまでのことをAI・人工知能が代替可能とは思っていません。
むしろ5に関しては「人工知能をどうやって有効活用するか」というものであると考えています。
むしろ5に関しては「人工知能をどうやって有効活用するか」というものであると考えています。
AI時代を生き抜くためには、経理の仕事に関わらず、「AIを活用する側」になることが重要だということかと考えています。
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